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OLIVER LAND × THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL 2023 十五代 沈壽官 × タブゾンビ スペシャル対談 OLIVER LAND × THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL 2023 十五代 沈壽官 × タブゾンビ スペシャル対談

2018年から桜島にてスタートした『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL』。
コロナ禍での中止期間を経て再出発するのは、400年以上続く薩摩焼の窯元・沈壽官窯のある日置市です。

このご縁を機に、THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL実行委員から十五代沈壽官へ記念となる置物の制作のオファーが。そして今回、ヘスの発起人・タブゾンビ氏との対談が実現しました。実は、意外な共通点のあるおふたりの対話をたっぷりとお楽しみください。

「日置に呼ばれている気がする」


『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL』のことはご存知でしたか?

十五代沈壽官さん(以下、十五代沈壽官)

もちろん桜島で開催されていたのは知っていたけれど、今回、日置で開催されると聞いてびっくりしましたよ。
そもそもヘスを始めるきっかけは何かあったんですか?

タブゾンビさん(以下、タブゾンビ)

もともとはGSH実行委員のひとりと2006年にクラブ「恵比寿MILK」で開催された「NINES」※というイベントで出会ったのが始まりです。その出会いをきっかけに鹿児島で“フェス”をやりたいね、と話して。

※九州各地から上京したクリエイターを中心に企画された、音楽と焼酎を楽しむクラブイベント「NINES」にタブゾンビが出演。ほかにも、TOKYO No.1 SOUL SETの川辺ヒロシや、ナンバーガール、ZAZEN BOYSの向井秀徳なども出演していた。また、このイベントには現在、国内外で活躍している鹿児島県出身のグラフィックアーティスト、アートディレクター YOSHIROTTENがアートワークで参加。『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL』の 2018〜2022年のロゴは、YOSHIROTTENが代表を務めるYARが制作している。

十五代沈壽官

そのときはまだ“ヘス”じゃないんだね。

タブゾンビ

そうです。まだ“フェス”でした(笑)。
そこから13年目でようやく“ヘス”が開催できました。
実は今回、めちゃめちゃ日置に呼ばれている気がしているんです。というのも満島ひかりさんとコラボしたときに、彼女が日置に縁がある方だとわかったり、ほかにもいろいろ縁を感じることがあったり…。あとは僕、昆虫が好きで、特にカマキリがすごく好きなんですけど、子どものころに親戚の家が加世田 にあってよくつかまえに行っていたんです。

※加世田市は2005年11月に、日置郡金峰町、川辺郡大浦町・笠利町・坊津町と合併し、南さつま市となった。

十五代沈壽官

カマキリが好きなの?

タブゾンビ

そうなんです。加世田のカマキリがめちゃめちゃ大きいんですよ。
カブトムシとかもほかの地域とは大きさが全然違うんですね。そういうこともあって日置にはなじみがあるんです。

「ソウルミュージック研究会GALAXY」設立当時のこと


十五代は早稲田大学の「ソウルミュージック研究会GALAXY 」の創設者だそうですが、
現在はどのような音楽を聴いていますか?

※GALAXYとは、早稲田大学の伝説のサークル「ソウルミュージック研究会GALAXY」のこと。ライムスターの宇多丸やジェーン・スー、 KEN THE 390など、有名アーティストや音楽関係者を多数輩出している。

十五代沈壽官

高校時代にソウルミュージックに出合って、大学時代はそれに埋没していたんですよ。当時は、サークル主催で大隈講堂で映画を上映したこともありましたね。そうして徐々にいろいろな音楽を聴くようになりました。

タブゾンビ

どんな音楽ですか?

十五代沈壽官

いまは雑多ですね。韓国の音楽も聴きますよ。
韓国の音楽は最近のものも聴きますが、僕、30歳のころに一年間、韓国に修業に行っていたんですよ。住み込みでキムチのカメをつくる工場に。そのときはもっぱらトロットと言われる韓国の演歌を聴いていました。

タブゾンビ

いまもGALAXYのメンバーとは関わりがあるんですか?

十五代沈壽官

18か19歳のときにつくったサークルですが、僕が60歳になるまで後輩たちが5年ごとに同窓会を企画してくれていたので、長く交流がありましたね。
そこにライムスターの宇多丸やレコード会社に勤めている人、音楽ライターなどが来ていたんです。GALAXY出身の音楽関係者がすごく多いんですよ。まあ僕らが始めたころは新興サークルで部室もなかったんですけどね。当時は「キャプテン」というソウルミュージックを流している喫茶店があって、そこへ集まって活動していたんですけど、だんだんと人数が増えて入りきれなくなってしまった。ヒップホップが入ってきてからグッとメンバーが増えてきましたね。

タブゾンビ

40年以上続いているのがすごいですね。

十五代沈壽官

僕が大学卒業するときには、後輩たちには「潰していいからね」なんて言っていたんですけどね。
「守れよ」と言うと潰れると思ったので、「いつでも潰していいから気楽にやってちょうだい」と言ったほうが続くのかなって(笑)


十五代がソウルミュージックに傾倒されていた10代後半から20代前半。
タブゾンビさんはその歳のころ、どのような音楽活動をしていましたか?

タブゾンビ

高校時代にメタルバンドをやっていて、みんなで上京しようとなった。
僕は埼玉県の草加にある獨協大学に進学してバンドを続けていたんです。でも全然火が付かなくて、仕方がないからジャズ研に入ったんです。
あるときコンテストに出たんですけど、アドリブの吹き方も知らないからめちゃくちゃに吹いたんですよ。そうしたらジャズピアニストの前田憲男さんに褒めていただいて最優秀ソリスト賞をもらったんです。これを機にプロでいけるかなと思ったら、そこからが厳しかったですね。
レコード会社から言われて、アイドルグループのバックバンドをしたこともありました。

韓国と日本の文化的なつながり


十五代は駐鹿児島韓国名誉総領事として、韓国と日本の文化的な架け橋となっておられますね。

十五代沈壽官

父が日本で最初の駐鹿児島韓国名誉総領事を務めていたのですが、亡くなったので韓国の大使館に返納したんです。そうしたら何年か経って、私に依頼がありました。仕事としては、日本人に対して韓国のことを“いいかたち”で紹介することです。 司馬遼太郎先生の小説に『故郷忘じがたく侯』という作品があるのですが、この主人公のモデルが父。司馬先生の作品において唯一、現存する人間をモデルにした小説でもあります。そしてこの作品が在日の韓国人や朝鮮人にとってバイブルのようになった。
父は日本語がネイティブだったのでコミュニケーションを上手く図れた、というのもありますね。


今回、韓国のロックバンド・Say Sue Meが出演されます。音楽で両国が交流を図り、友好関係を築いている現状についてはどう思われますか?

十五代沈壽官

韓国のアーティストではBTSが世界的に活躍していますが、僕は日本の音楽が負けているとは思っていないですよ。幅の広さでは圧倒的に日本なのかな、と僕自身は思っています。
何かを好きになる入り口は、何でもいい。例えば、キムチが好きだから韓国文化に興味をもつ、でもいいんです。

タブゾンビ

いま韓国のロックシーンもすごいんですよ。
国策として音楽も映画もつくっているので、とても高水準。K-POPが世界的に人気ということもあって、イギリスには韓国語なまりの英語で歌っているアーティストもいるくらい。韓国語なまりの英語がかっこいい、という感じなんです。

十五代沈壽官

もともと民族的に歌ったり踊ったりするのが大好きなんですよね。中国の『東夷伝』にも朝鮮半島のことが書かれているのですが、食べることと歌うこと、躍ることが大好きな人たちだと記されているんです。

タブゾンビ

Say Sue Meもめちゃめちゃいいですよ。日韓の政治的な関係にかかわらず、実際に韓国へ行って人とふれあってみると想像以上に友好的だったり、世界中をツアーでまわっていますが、危険だとされている国に行っても実際は全然そうでもなかったり。
だからどんな国同士でも、人と人がふれあう機会があるといいのかなと。僕も入り口、きっかけは音楽でも何でもいいと思いますね。

十五代沈壽官

どうしても政治はメンツが先に立って行き詰まったり、企業対企業は利益が生まれなかったらいけなかったり。けれども閉塞状況は、文化の力で突き破る。そういうことが大事なことだと思います。 若い人たちは双方に嫌悪感やコンプレックスをもっていないし、今後はどんどんよくなっていくと思っています。共生していけるのは、本当にいいことです。

振動が共振して生まれる感動


たくさんお話をうかがいましたが、今後のことについて考えていることを教えてください。

十五代沈壽官

64歳という年齢もあると思うんですが。若いときはあれもやりたこれもやりたいと、いくつもやりたいことがあったんですね。
でも徐々にそれが“やり残したことはあるか”という捉え方に変わってきました。いまこういう仕事をしているので、僕自身はエッセンスだけを集めたような仕事、特に原料から掘ることを始めたので、鹿児島で採れる原料だけでつくることをやっていきたいですね。
薩摩焼には白と黒がありますが、白と言っても無限に色がある。僕が思い描く白と、タブさんが思い描く白は、まったくイコールにはならなんです。

タブゾンビ

はい。

十五代沈壽官

同じように透明も違うんです。
捉えどころがないような白と透明の組み合わせのなかで、自分がこれだと思う原料、表情をつくりたい。それも自分が山から掘ってきたものを精製してつくりたい。僕自身がこれまで培ってきたいろいろな技術のなかでエッセンスだけを凝縮したような。一番、素地だけを見てほしいですね。
だからこれからはやり残したことをしっかりやって、次にバトンタッチしていきたいと思っています。

タブゾンビ

僕はまだあれもこれも、いろいろなことをやりたいですね(笑)。時代的にも、職業をひとつに決めないという生きかたも選択のひとつという流れになっていますし。
もちろん音楽はメインでやっていきますが、ほかにもやりたいことをヘスを通して実現したり、鹿児島のいいものを全国に紹介したり…。
もっと鹿児島のいいものを世界に知って欲しいと思っています。例えば、ヨーロッパへ行くと日本酒は有名だけれど、焼酎はほとんど知られていない。海外にも焼酎文化が入る隙があると思うんです。
音楽とは異なることですが、音楽という軸をドンともったうえで、あれもこれもまだやりたい時期です(笑)

十五代沈壽官

そうだよね。若いときは、時代っていうのは過去から未来に向けてまっすぐストレートに進んでいるかのように思っていたんだよ。だから進んでいく時代において行かれてはいけないっていうのが頭のどこかにあった。けれども最近、そうじゃないのではと思っている。時代っていうのはグルグル回っているんじゃないかなと。グルグル高速で回転しているものに対して、自分がすがりついて、しがみついて、あるいは並走しようとするとかなり大変。でもその渦の真ん中に自分がいて、その渦を俯瞰で見ていたとしたら…。ファッションでもそうじゃないですか。

タブゾンビ

ファッションも繰り返しますね。

十五代沈壽官

そう、しかも若干らせん状で回転しているような気がして。
だから自分はその中心から見ていたいなと思っているんです。特に僕の果たすべき役割のひとつに、変わらない、動かない、原点である、というものがあります。そういう灯台のように動かないものがあることによって、船が自由に動ける。それだとおまえは不自由じゃないかと言われるかもしれないけれど、決してそうではない。自由に動けるものと、動けないものがあると、一見、動くもののほうがよさそうに感じるけれど、灯台が光を落としてしまったとすると船は緯度経度を確認するすべを失ってしまう。逆に言うと動かないものによって動かされているんです。とらえ方ですけどね。
ただ、灯台のように不動の比較対象にならなくてはいけないと思っていて、いまはできるだけローカルに、できるだけアナログにと考えています。

タブゾンビ

音もそうですが、結局デジタルを突き詰めていくとアナログの音になっていくんですよね。レコードが一番、人間っぽい音がするというか。だから技術を突き詰めていくとアナログになるんじゃないかなという気がしますね。

十五代沈壽官

そうだね。それが回転していると考えるとアナログに戻ってくるわけだけど、そのときにレコードプレイヤーがないとなると困る。それこそ昆虫がいなくなってしまうみたいに。

タブゾンビ

音楽もいまはいろいろな聴きかたがありますが、やっぱり生は全然違います。

十五代沈壽官

その場でつくった音が空気の振動を伝わって入ってくるのと、信号に変えてしまうのでは全然違いますよ。

タブゾンビ

量子力学の話になりますが、すべて振動してできていますから。この蝶の作品も。手に取って自分と作品の振動が共振したとき、初めて感動が味わえる。音楽もそうです、ぜひ生で触れてほしいですね。

十五代沈壽官

確かにあるんだよ。そこに居て感じる気とか、肌で感じるものとか、匂いとか。ただ僕、心配なんだよ。THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL、会場にみんな入りきるかな?

タブゾンビ

大丈夫です(笑)。音楽も食も、スポーツも芸術も、すべて“生”がいいと思うので、ぜひ体験してほしいですね。その振動を味わってほしいです。

十五代沈壽官

すばらしい!

約1時間にわたり沈壽官窯の御仮屋にて行われた【十五代 沈壽官×タブゾンビ】スペシャル対談。音楽・昆虫・アナログなど、意外な共通点があるおふたりの対話は、思いもよらぬ広がりがありました。
ぜひ10月21日(土)、22日(日)は『『OLIVER LAND x THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL 2023』
チケット購入はこちら』へ足をお運びください。

Profileタブゾンビ

鹿児島県出身。『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL』の発起人。2001年、SOIL&"PIMP"SESSIONSを結成。トランペットを担当している。国内はもとより海外でも人気を博し、イギリスの世界最大級のフェスティバル「グラストンベリー」や、スイスの「モントルー・ジャズ・フェスティバル」、オランダの「ノース・シー・ジャズ・フェスティバル」など、数々の大規模ジャズ・フェスに出演。これまでに世界31カ国、100公演を超える海外公演を行うなどワールドワイドに活躍している。

文/ やました よしみ
写真 / 南 修一郎(MINAMI PHOTO STUDIO)

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